最新小説読書日記

新刊書店の平積みされている最新小説を手あたり次第読破! ネタバレNGで紹介します

「夜行」 森見登美彦

記念すべき、最初の取り上げる小説は森見登美彦の最新作「夜行」です。

おすすめ度は

★★★☆☆

 

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森見ファンは迷っているなら買いましょう!!

あらすじ

僕らは誰も彼女のことを忘れられなかった。

私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。
十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。
十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ。
夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。
私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。
旅の夜の怪談に、青春小説、ファンタジーの要素を織り込んだ最高傑作!
「夜はどこにでも通じているの。世界はつねに夜なのよ」

 

Amazon作品紹介より抜粋

 

 

作品批評に入る前に僕が本屋でどのような判断基準で買う小説を選ぶのかをお伝えします。

①作者名

これは、必ず考慮してしまいます。おっ、この人新作出したんだ!ってことで興味を惹かれて手に取るということはよくありますよねー。

作者のファンならよほど悪評ではない限り買ってしまいます。

②デザイン

文庫本書下ろしという形態もありますが、基本的には最新作は単行本→文庫本という流れで発売されるので、この単行本のデザインというのは超重要だと考えてます。

だって、(誤解を招くような言い方ですが)ネットで無料に小説を読めるこのご時世に紙と文字だけのモノに1500円以上払わせようとしているんですよ!

デザインにも価値がないとお金を払おうなんて思わないですよってことです。

③評判

便利で、そして悲しいことですけどAmazonの評価とか見ちゃいませんか……?

そんなもんに左右されたくないって思うんですけど、やっぱり人間「はずれ」は引きたくないです。

作品の評判は買う前に見る。あくまで参考ってことですけどね。

 

さて、そんな判断基準で僕は小説を選ぶわけなんですが、今回の「夜行」は一体どんな理由で選んだのでしょうか。

 

ずばり……①の作者名ですね!

何を隠そう僕は学生の頃、森見登美彦にはドはまりしていまして、

今回久しぶりに彼の名前を見た瞬間購入は決めてしまったくらいです。

表紙のデザインも幻想的で綺麗ですよね。

真ん中の少女もかわいい!

もしかしたら、今回は幻想的なふわふわ系の話かな(笑)

 

「夜行」の話はひとまず置いておいて、作者の森見登美彦さんについてご存知の方も多いと思いますが説明させて下さい。

 

代表作はアニメ化もされた「四畳半神話大系」や本屋大賞第2位の「夜は短し歩けよ乙女」、これまたアニメ化もされている「有頂天家族」等でしょうか。

上記の作品は京都の街を舞台としたドタバタコメディと評するのが簡潔で一番的確な気がします。

腐れ大学生の偏屈ぶりや非生産性的な日常、そしてその愛らしさ(笑)を書かせたら、右に出るものはいないでしょう。

かく言う僕も堕落した大学生だった過去があり、その当時によく読んでいたので非常に好きな作者です。

 

また森見登美彦作品にはコメディ系統とは別の一面があります。

それが「きつねのはなし」や「宵山万華鏡」などの若干怪談テイストの作品達です。

夜の京都の非現実感や闇の不思議さ不気味さの表現が非常に巧みです。

 

というように森見登美彦のこれまでの作品は基本京都を舞台としており、ジャンルとしてコメディもあればホラー的な物語もあるといった感じです。

さて前置きが長くなりましたが、最新作の「夜行」は一体どっち系統の話なのかって問題ですが、あらすじで大体想像できますよねぇ。

 

ホラーですよ! ギャグ一切排除の怪談でした!

正直言うと僕はどちらかと言えば森見登美彦はコメディの方が好みではあるんです。

今回の「夜行」も読み始めは「う~む」感が強かったのは否定できませんね。

全5章で構成されているのですが、第3章までは怪談としての要素が強いです。

ホラーと表現もしましたが、やはりしっくりくるのは怪談という表現ですね。

血がドバドバのスプラッターホラーではなく、夜の闇の静かな恐怖、不可思議から来る恐怖……つまり怪談ですよね。

 

でも、今回の「夜行」は森見作品で一番近いのは「宵山万華鏡」なのですが、

これまでの怪談とは違う、明らかに新しい試みに挑戦しているなって気が僕はしています。

その試みっていうのが僕はミステリ要素だと考えています。

そして、その新しい試みが……大成功していると断言します

 

さて「夜行」を本当にざっくりした説明すると、10年前に同じ英会話スクールの仲間だった6人の不思議体験の話です。

そのうちの一人、長谷川さんはその10年前に謎の失踪をしてしまっています。

主人公である大橋が10年ぶりに揃った仲間と宿で鍋を囲って食事している時に失踪した長谷川さんに似た人物を見た、そして見た場所が岸田道生という画家の個展画廊だったという告白から「えっ、俺も岸田道生知っている」「私も私もー」(っていうノリではないですけど)、お互いの岸田道生、あるいはその作品である連作『夜行』にまつわる不思議体験を披露していくっていう話の構成です。

 

ただ、彼らが語る話が本当に普通じゃないんですよ。

不思議だねぇで終わる話じゃなくて、めちゃくちゃ怖い!

しかも、その謎とか不思議さがその章の中でほとんど解決されない!

おまけに話が中途半端なとこで終わるんです。

え? この話ここで終わりなのって感じになります。

更に過去の体験談の中の話に現実感はないんですけど、それを聞いている「現実」ですらも何だか現実味がないんです。

中途半端に話が終わっているのに、次の人が何もなかったように自分の不思議な体験談を語りだす。

お前らよくこんな話聞きながら鍋食えんな!って内心突っ込んでいました。

その結果、1~3章くらいまではなんだかもやもやするんですよ。決してつまらないわけじゃないんですけど、「このまま最後まで訳のわからない怪談話で終わったらどうしよう」っていう不安は拭えない感じ。

 

4章に入ってくると物語の中心であり謎の人物「岸田道生」の人物像に厚みが増えてくる、それと比例してこれまでの怪談話の中心であり恐怖の根源だった『夜行』という絵への恐怖が薄まってくるんです。

そして、最終章の「鞍馬」でまさかのどんでん返しの展開。

その結果これまでの怪談が単なるホラーではなくなるんですよね。ミステリとして謎が解決できてもやもやがすっきりできる箇所もあるんです!

ただ、すべての謎が解決できるわけではない。

説明されない部分がほとんどです。

もしかしたら、そういう部分のもやもやで自分には合わないなぁって感じる人がいるのも分かります。

オススメの★が3つなのはそういうところです。

ただ、そもそもミステリー作品ではないので解決する必要もないのかなって思いますし、そういう部分も併せて森見登美彦の魅力かなと。

 

僕は森見登美彦の夜の表現がすごく好きで、どれだけ科学が発展しようが夜の闇の不気味さやゾッとする恐怖はなくならないっていうのを読書を通じて感じさせてくれると思うんです。

多分、誰でも夜の闇に対して「死」を連想するからだと思いますし、これから先もなくならないでしょう。

 

今作は怪談でありながら、ミステリとして楽しめる部分も加え、それでも完全には全て明かさない、想像する余地をしっかり残しておくという小説の面白さを堪能できる傑作だと思います!

 

ところで、以前は森見さんのコメディ作品をもっと読みたい!って思っていたんですよ。でも、最近はそんな気持ちがちょっと薄まってきています。

というのも、(ここからの意見は完全に妄想ですが)今の森見さんには腐れ大学生ものはもう書けないと思うんです。

なぜなら、もうその当事者ではないから。森見作品の定番腐れ学生主人公「私」は森見さんの分身だったわけです。それはコミュニケーション力がなくて、童貞で、自尊心が強くて、堕落したダメ人間です。まぁ、それが最高に愛らしいのですけどね。

多分、森見さんは今幸せというか、満ち足りた生活をしているんじゃないかなって想像してます。 そして、そんな状況の中で作品内の「私」に心から共感できなくなって、書くことができなくなってしまった。

だから、僕もあえて以前のようなコメディ作品を求めなくなってきています。

でもでもって、森見さんの作品はこれからも追っていきたいと思います!

 

ぜひ、今作の「夜行」も書店で手にとってみてください!