「コンビニ人間」村田沙耶香
こんにちは!
ネタバレNGで今回紹介させて頂く最新小説は
村田沙耶香さんの「コンビニ人間」です!
それでは早速今作のおすすめ度を発表します。
おすすめ度
★★★★☆
読みやすい! 面白い! 考えさせられる! 勇気がもらえる!
一言感想を連ねるとこんな感じでしょうか?
芥川賞も受賞した「コンビニ人間」
張り切って取り上げていきましょう!
内容紹介
第155回芥川賞受賞作!
36歳未婚女性、古倉恵子。
大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。
これまで彼氏なし。
オープン当初からスマイルマート日色駅前店で働き続け、
変わりゆくメンバーを見送りながら、店長は8人目だ。
日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、
清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、
毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。
仕事も家庭もある同窓生たちからどんなに不思議がられても、
完璧なマニュアルの存在するコンビニこそが、
私を世界の正常な「部品」にしてくれる――。
ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、
そんなコンビニ的生き方は
「恥ずかしくないのか」とつきつけられるが……。
現代の実存を問い、
正常と異常の境目がゆらぐ衝撃のリアリズム小説。
Amazon 作品紹介より
作品について語っていく前に、ちょっと僕の話をさせてください。
このブログを始めてご覧になった方は当然知らないことですが、
僕はとある「普通」の中古ショップの店長をやっています。
朝は9時くらいに出勤し、アルバイトメンバーと一緒に仕事をしています。
サービス業なので土日は当たり前のように「普通」に仕事です。
年末年始は休みがなく、むしろ稼ぎ時ですが、僕にとってはもう慣れっこの「普通」のことです。
さて、人によっては「普通じゃないよ」と思われた方もいるでしょうし、「普通」だねと思った方もいらっしゃるでしょう。
「コンビニ人間」はこの「普通」について考えさせられる小説になっています。
ただね! 多分「コンビニ人間」を語る際はこの「普通」とは何かというテーマを多くの人が語ると思うんですよ。
僕はあえてまずは先にテーマ以外の作品の面白かった点を取り上げさせて頂きます!
何が面白いってキャラクターが面白いですよね。
主人公の「コンビニ人間」こと古倉恵子。
婚活目的でコンビニにやってきた「縄文野郎」こと白羽。
ズバズバと読者の僕らが言いたいことを言ってくれる白羽の義妹。
他にも恵子の友人の旦那である偏見野郎など、特徴的な人物が多く登場します。
彼らははっきり言ってかなりデフォルメ化されたキャラクターではあります。
「こんなやついるかよー」って何度も思う反面、どこか僕らの中にある嫌な部分を彼らが見せてくれるんですよね。それが僕ら読者に読んでいる間の居心地の悪さみたいのを感じさせるわけです。
恵子のずれたセリフは周囲の人を時に当惑させるわけですが、本人は真面目なだけにその「ズレ」が読者にとっては笑いに繋がります。
とある事情で恵子は白羽と同居することになるのですが、その時に白羽への食事を「餌」と評する件とかは本当に笑えます。
しかも、白羽も満足げに「まぁ、それでいいでしょう」と言い放つのですが、それでいいんかい!ってね。
読者はこんな恵子と周囲の人々との会話などのズレを追体験していくわけですが、
あまりにも恵子がずれているからこそ、周囲の人々が語る「普通」へのある種の気持ち悪さというか、得体のしれない違和感が浮かび上がってきます。
このズレがテーマである「普通」とはなにかに繋がってくるわけです。
例えば結婚の時期について恵子の友人の旦那は
「いや、早いほうがいいでしょ。このままじゃ駄目だろうし。焦っているでしょ? 正直? あんまり年齢いっちゃうとねえ、ほら、手遅れになるしさ」
というのですが、ここから読み取れるのは世界の、日本という国におけるある種の女性の「普通」の結婚/出産に対する認識ですよね。
この上記の「普通」の結婚観はもちろん生物学的な妊娠の適齢期という意味合いが前提にあり、それは1つ事実ではあるかもしれませんが、この男が言っているのはそういうこと?っていう問題ですよね。
非常に抽象的でアバウトな表現を彼は使っています。
言いづらいことだから、すっごいふわっとした言い方をしているっていう部分はあるんですけど、でも僕らはよく考えもせずに、たいした理由もなく、この男と同じように「結婚は早いほうがいい」って思っているんです。だから、発言対してたいした考えもないからふわっとした一般論的な言い方しかできないわけなんですよね。
なぜなら、それが「普通」だから。
否、「普通」だと思っているからです。
こういうセリフの一つ一つがよくある日常会話の流れとして提示されてくるわけですが、恵子というフィルターを通して聞くことで、よく考えるとこの「普通」って「普通」じゃないよなと改めて考えることができます。
ただ、この作品の優れている点というのは単なる「普通」とは何かという話題で終わっていないことだと思っていて、それが恵子と白羽というキャラクターの対比によく表れていると感じました。
例えば白羽はこんなことを言います。
「この世界は異物を認めない。僕はずっとそれに苦しんできたんだ」
「皆が足並みを揃えていないと駄目なんだ。何で三十代半ばなのにバイトなのか。何で一回も恋愛したことないのか。性行為の経験の有無まで平然と聞いてくる。『ああ、風俗は数に入れないでくださいね』なんてことまで、笑いながら言うんだ、あいつらは! 誰にも迷惑をかけていないのに、ただ、少数派だというだけで、皆が僕の人生を簡単に強姦する」
ここだけ取り上げるとそれらしいこと言っているように見えますし、世間とはズレている恵子とは非常に似ているようにも最初は感じるわけです。
でも、読み進めているうちにこの2人は致命的に異なっていることに気づくわけですよね。
簡単に言うと恵子のほうがよりヤバい人間だったってことです(笑)
それで白羽はただ「普通」の世界についていけていない、でも妬んでいて、そして一番「普通」であることに憧れているっていう浅はかで薄っぺらい人間という違いです。
(僕らと同じ)
作品上における「普通」の世界に対して、恵子も白羽も異物であることは変わりないのです。ただ、白羽は「普通」の世界に対して自分を合わせていこうという努力もせず、自分らしさを貫こうともしない。ただただ、自分の現状に対して不平不満を垂らしているだけで何もしないんです。
それに対して恵子は色々あった結果、ネタバレになるので言いませんが、とある大きな選択をします。
それは見方によってはハッピーともバッドともとれるエンドですが、僕は非常に勇気をもらえました。
真っ先に連想したのはやはりアルプスの少女ハイジですね。
ハイジは町ではなく、アルプスの自然豊かな山々でしか生きられない、ということ。
街で暮らすことになったハイジはうつ病になってしまうわけですが、それは要するにハイジがハイジらしく明るく、はつらつと彼女の「らしさ」を殺すことなく、生きていくには町という「普通」の世界では駄目だったということです。
それと同じように恵子も世の中の「普通」に合わせていくことは自分の良さを殺し、不幸になるということに気づいたわけです。
狭い世界の「普通」に合わせて自分の良さを殺してしまうのではなく、自分らしく生きることのできる場所で自然に生きていくことが幸せなんだってっていう前向きなメッセージを僕は受け止めて、本当にラストでは勇気づけられましたし、周りに流されがちな自分って恰好悪いなと反省しました。
あの終盤のコンビニ内のシーンは謎の感動があり、興奮する名シーンです。
文句があるとすれば恵子さん、僕に言わせればめちゃくちゃ優秀な人ですよ! 僕の店で働きませんか! ってことですよね。
コンビニでしかうまく行かないってことは絶対に嘘だろって思いますけど。
まぁ、そこは登場人物はみんな極端にデフォルメされている部分でもありますし、テーマを浮かび上がらせるためには仕方ないかもとは思いますね。
また、ボリュームが少ない!
もっと恵子の物語を読んでいたい!っていうクレームもありますねぇ。
ただ、笑えるし、考えさせられるし、読んで絶対損はない1冊だと思います!