最新小説読書日記

新刊書店の平積みされている最新小説を手あたり次第読破! ネタバレNGで紹介します

「コンビニ人間」村田沙耶香

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こんにちは!

ネタバレNGで今回紹介させて頂く最新小説は

村田沙耶香さんの「コンビニ人間」です!

 

それでは早速今作のおすすめ度を発表します。

 

おすすめ度

★★★★☆

 

読みやすい! 面白い! 考えさせられる! 勇気がもらえる!

一言感想を連ねるとこんな感じでしょうか?

芥川賞も受賞した「コンビニ人間」

張り切って取り上げていきましょう!

 

内容紹介

第155回芥川賞受賞作!

36歳未婚女性、古倉恵子。
大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。
これまで彼氏なし。
オープン当初からスマイルマート日色駅前店で働き続け、
変わりゆくメンバーを見送りながら、店長は8人目だ。
日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、
清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、
毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。
仕事も家庭もある同窓生たちからどんなに不思議がられても、
完璧なマニュアルの存在するコンビニこそが、
私を世界の正常な「部品」にしてくれる――。

ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、
そんなコンビニ的生き方は
「恥ずかしくないのか」とつきつけられるが……。

現代の実存を問い、
正常と異常の境目がゆらぐ衝撃のリアリズム小説。

 

Amazon 作品紹介より

 

作品について語っていく前に、ちょっと僕の話をさせてください。

このブログを始めてご覧になった方は当然知らないことですが、

僕はとある「普通」の中古ショップの店長をやっています。

朝は9時くらいに出勤し、アルバイトメンバーと一緒に仕事をしています。

サービス業なので土日は当たり前のように「普通」に仕事です。

年末年始は休みがなく、むしろ稼ぎ時ですが、僕にとってはもう慣れっこの「普通」のことです。

 

さて、人によっては「普通じゃないよ」と思われた方もいるでしょうし、「普通」だねと思った方もいらっしゃるでしょう。

「コンビニ人間」はこの「普通」について考えさせられる小説になっています。

 

ただね! 多分「コンビニ人間」を語る際はこの「普通」とは何かというテーマを多くの人が語ると思うんですよ。

僕はあえてまずは先にテーマ以外の作品の面白かった点を取り上げさせて頂きます!

何が面白いってキャラクターが面白いですよね。

主人公の「コンビニ人間」こと古倉恵子。

婚活目的でコンビニにやってきた「縄文野郎」こと白羽。

ズバズバと読者の僕らが言いたいことを言ってくれる白羽の義妹。

他にも恵子の友人の旦那である偏見野郎など、特徴的な人物が多く登場します。

彼らははっきり言ってかなりデフォルメ化されたキャラクターではあります。

「こんなやついるかよー」って何度も思う反面、どこか僕らの中にある嫌な部分を彼らが見せてくれるんですよね。それが僕ら読者に読んでいる間の居心地の悪さみたいのを感じさせるわけです。

恵子のずれたセリフは周囲の人を時に当惑させるわけですが、本人は真面目なだけにその「ズレ」が読者にとっては笑いに繋がります。

とある事情で恵子は白羽と同居することになるのですが、その時に白羽への食事を「餌」と評する件とかは本当に笑えます。

しかも、白羽も満足げに「まぁ、それでいいでしょう」と言い放つのですが、それでいいんかい!ってね。

読者はこんな恵子と周囲の人々との会話などのズレを追体験していくわけですが、

あまりにも恵子がずれているからこそ、周囲の人々が語る「普通」へのある種の気持ち悪さというか、得体のしれない違和感が浮かび上がってきます。

このズレがテーマである「普通」とはなにかに繋がってくるわけです。

例えば結婚の時期について恵子の友人の旦那は

「いや、早いほうがいいでしょ。このままじゃ駄目だろうし。焦っているでしょ? 正直? あんまり年齢いっちゃうとねえ、ほら、手遅れになるしさ」

というのですが、ここから読み取れるのは世界の、日本という国におけるある種の女性の「普通」の結婚/出産に対する認識ですよね。

この上記の「普通」の結婚観はもちろん生物学的な妊娠の適齢期という意味合いが前提にあり、それは1つ事実ではあるかもしれませんが、この男が言っているのはそういうこと?っていう問題ですよね。

非常に抽象的でアバウトな表現を彼は使っています。

言いづらいことだから、すっごいふわっとした言い方をしているっていう部分はあるんですけど、でも僕らはよく考えもせずに、たいした理由もなく、この男と同じように「結婚は早いほうがいい」って思っているんです。だから、発言対してたいした考えもないからふわっとした一般論的な言い方しかできないわけなんですよね。

なぜなら、それが「普通」だから。

否、「普通」だと思っているからです。

こういうセリフの一つ一つがよくある日常会話の流れとして提示されてくるわけですが、恵子というフィルターを通して聞くことで、よく考えるとこの「普通」って「普通」じゃないよなと改めて考えることができます。

ただ、この作品の優れている点というのは単なる「普通」とは何かという話題で終わっていないことだと思っていて、それが恵子と白羽というキャラクターの対比によく表れていると感じました。

例えば白羽はこんなことを言います。

「この世界は異物を認めない。僕はずっとそれに苦しんできたんだ」

「皆が足並みを揃えていないと駄目なんだ。何で三十代半ばなのにバイトなのか。何で一回も恋愛したことないのか。性行為の経験の有無まで平然と聞いてくる。『ああ、風俗は数に入れないでくださいね』なんてことまで、笑いながら言うんだ、あいつらは! 誰にも迷惑をかけていないのに、ただ、少数派だというだけで、皆が僕の人生を簡単に強姦する」

ここだけ取り上げるとそれらしいこと言っているように見えますし、世間とはズレている恵子とは非常に似ているようにも最初は感じるわけです。

でも、読み進めているうちにこの2人は致命的に異なっていることに気づくわけですよね。

簡単に言うと恵子のほうがよりヤバい人間だったってことです(笑)

それで白羽はただ「普通」の世界についていけていない、でも妬んでいて、そして一番「普通」であることに憧れているっていう浅はかで薄っぺらい人間という違いです。

(僕らと同じ)

作品上における「普通」の世界に対して、恵子も白羽も異物であることは変わりないのです。ただ、白羽は「普通」の世界に対して自分を合わせていこうという努力もせず、自分らしさを貫こうともしない。ただただ、自分の現状に対して不平不満を垂らしているだけで何もしないんです。

それに対して恵子は色々あった結果、ネタバレになるので言いませんが、とある大きな選択をします。

それは見方によってはハッピーともバッドともとれるエンドですが、僕は非常に勇気をもらえました。

真っ先に連想したのはやはりアルプスの少女ハイジですね。

ハイジは町ではなく、アルプスの自然豊かな山々でしか生きられない、ということ。

街で暮らすことになったハイジはうつ病になってしまうわけですが、それは要するにハイジがハイジらしく明るく、はつらつと彼女の「らしさ」を殺すことなく、生きていくには町という「普通」の世界では駄目だったということです。

それと同じように恵子も世の中の「普通」に合わせていくことは自分の良さを殺し、不幸になるということに気づいたわけです。

狭い世界の「普通」に合わせて自分の良さを殺してしまうのではなく、自分らしく生きることのできる場所で自然に生きていくことが幸せなんだってっていう前向きなメッセージを僕は受け止めて、本当にラストでは勇気づけられましたし、周りに流されがちな自分って恰好悪いなと反省しました。

あの終盤のコンビニ内のシーンは謎の感動があり、興奮する名シーンです。

 

文句があるとすれば恵子さん、僕に言わせればめちゃくちゃ優秀な人ですよ! 僕の店で働きませんか! ってことですよね。

コンビニでしかうまく行かないってことは絶対に嘘だろって思いますけど。

まぁ、そこは登場人物はみんな極端にデフォルメされている部分でもありますし、テーマを浮かび上がらせるためには仕方ないかもとは思いますね。

また、ボリュームが少ない!

もっと恵子の物語を読んでいたい!っていうクレームもありますねぇ。

 

ただ、笑えるし、考えさせられるし、読んで絶対損はない1冊だと思います!

 

 

 

「i」 西 加奈子

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ネタバレ厳禁で紹介する新作小説感想!

今回、紹介させて頂く作品はこちら!

 

「i」 西 加奈子

 

おすすめ度は

★★☆☆☆

非常に読み応えのある超大作なのは間違いなし!

事実、僕も2回ほど泣きました!

ただ、どうしても気になってしまう「うーん」ポイントも……

問題はワイルド曽田アイを好きになれるかどうかだ!!

 

あらすじ

残酷な現実に対抗する力を、
この優しくて強靭な物語が与えてくれました。
――又吉直樹

読み終わった後も、ずっと感動に浸っていました。
なんてすごいんだろう。
この小説は、この世界に絶対に存在しなければならない。
――中村文則

『サラバ! 』(直木賞受賞)から2年、
西加奈子が全身全霊で
現代(いま)に挑む衝撃作!

「この世界にアイは存在しません。」
入学式の翌日、数学教師は言った。
ひとりだけ、え、と声を出した。
ワイルド曽田アイ。
その言葉は、アイに衝撃を与え、
彼女の胸に居座り続けることになる。
ある「奇跡」が起こるまでは――。

「想うこと」で生まれる
圧倒的な強さと優しさ――
直木賞作家・西加奈子
渾身の「叫び」
心揺さぶられる傑作長編!

 

Amazon 作品紹介より抜粋

 

では、作品感想に入る前に作者について語っていきたいと思います。

僕はいつも書店で基本的にはジャケ買いをして、まずは何の情報もなしに読みます。

その後で作者本人のことを調べたり、作者の他の作品も読んでみて、最後にもう一度読み直すという読み方が僕は好きです。

西加奈子さんのことは実は不勉強でそこまで詳しくなかったです。それでも最初は事前情報なしで読んで、次に作者の来歴を調べてから、読み直しました。

格好つけた言い方になりますが、やっぱり「作家性」というのはこれまでの作者の経歴から来るものもあるので「ああ、こんなバックボーンがあったからこういう話が思いついたんだ」というような発見があります。

これまでのインタビュー記事を読んで知った情報なのですが、
西加奈子さんの生まれはイランのテヘラン市。2歳までカイロにいらっしゃって、その後大阪、次はエジプト、そしてまた大阪に戻るという中々特異な幼少時代を過ごされたみたいですね。

成人後はライターやカフェ経営という経験を経て、2004年に「あおい」(小学館刊)でデビュー。

代表作は「さくら」や「きいろいゾウ」、「ふくわらい」、そして2015年に直木賞となった「サラバ!」でしょうか。

そんな西加奈子さんの最新長編が今回の「i」です。

おそらく彼女のファンの方からすると最高傑作という評価になるのではないですかね。

事実、売上も好調なようです。

又吉さんも感想載せていますしね!

 

今作の「i」のストーリーですが、上述のあらすじではよくわからないので、軽く補足させて頂きます。

主人公はシリア生まれだが、アメリカ人の父と日本人の母を持つ女性ワイルド曽田アイ。

自身が養子であること、周囲との人間関係、シッター親子との過去の思い出や祖国シリアの悲惨な現状、日本での3/11の経験、結婚/妊娠といった生まれ育った環境、様々な経験の中で「i=私の存在」に悩み、そして向き合っていく物語です。

先ほども述べましたが、僕は後半の「親友であるミナの手紙」、クライマックスの「海中での叫び」の場面で結構泣いてしまいました。

それほど感動できるし、考えさせられる作品であるのは間違いありません。

作品のテーマは一言で述べるならば「i=私の存在の肯定」でしょうね。

テーマ自体は昔からよく言われる「私は私、あなたはあなた。みんな違って、それでいい」というような多様性の肯定という使い古されたものにも感じられるかもしれません。

ですが、今作ではこの段階を更に1歩、2歩踏み込んだ境地に辿り着いています!

個人という狭い世界に収まらない大きいサイズ間での「アイとユウーー私と他者」という「わたしとあなたの存在の肯定」になっているんですよね。

このあたりは是非実際に今作読んで頂いて十分に感じてほしいですね。

 

タイトルにもなっている「i」はこの作品内では多様な意味を持っていて、冒頭一行目にある「この世界にアイは存在しません」は作中において何度も述べられる需要なキーワードになっています。

「私としてのI、名前としてのアイ、虚数単位としてのi」というようにiの意味がどんどん重ねってくる、アイという名前の私=世界に存在しないワタシ、というような言葉の面白さ、つまりは小説としての面白さが感じられる部分ですし、しかもそこがストーリーの根幹になっている……素直にうまいなぁと唸る部分ですよね。さらにアイの幼少期から学生時代に至る成長過程が丁寧にアイの主観目線で描かれることで物語が奥深まっているなぁと感じました。

細かい心理描写を丁寧に描くことで、最後にアイが辿り着くある答えがあるんですけど、その答えに必然性と説得力を与えることに成功している部分ですよね。さすがは直木賞作家です。

「i」は私小説ではありませんが、前述したように西加奈子さんご自身の経験や生まれ育った環境というものが多く反映されていると感じました。おそらくずっと描きたいと考えていたテーマだったんでしょうし、彼女自身、アイデンティティの問題をずっと抱えてきたのではないのかなって妄想してしまいます。

本当にミナの手紙から最後まではずっと泣きっぱなしでしたし、帯の煽り文句である「想うこと」で生まれる圧倒的な強さと優しさーーを深く感じることができたと思います。

 

 

さてさてさて、ここまで書いておいて、どうして★5つじゃないのか……そんな感想をもった方がいらっしゃるんじゃないですかね。

それが今回の冒頭にも書いたワイルド曽田アイという主人公の存在です!!

いやいや、分かるんですよ? 彼女のそういう性格であることの必然性とかはねぇ。

でもですね、どうしても好きになれない(笑)

本当にアイちゃんは甘やかされすぎです!

嫌いなポイントが何個かあるんですけど、その最たるものが「甘やかされている、恵まれているなんてことはわかっている! でもでも! そのことが逆に私を傷つけるの!」的なスタンスが、

気に入られねぇ!!

なんですかね、成長していないように思えてしまうんですよね。

だからこそ、特異なバックボーンから来る様々な困難や悩みは想像できるし、理解もできるんですけど……

ですけど! 「それ分かるよぉー」「頑張ったねぇー」って共感してほしい、否定してほしくないという幼稚なあれにしか見えないわけです。

中盤らへんでは「もっと不幸になれ!苦しめ!」って思ってしまうくらい(笑)

せめて、バイトでもして社会を知ってから世界を語りやがれ!ってね。

 

と、まぁ絶賛と酷評ポイントを述べてきたわけですが、このアイに感情移入できれば生涯最高の1冊に入れる人がいたとしても理解できますし、それだけのパワーがこの作品にはあるのは間違いないでしょうね。

少しでも気になったなら読んでみてくださいね。

 

では、また次の作品で!

 

 

 

 

「夜行」 森見登美彦

記念すべき、最初の取り上げる小説は森見登美彦の最新作「夜行」です。

おすすめ度は

★★★☆☆

 

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森見ファンは迷っているなら買いましょう!!

あらすじ

僕らは誰も彼女のことを忘れられなかった。

私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。
十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。
十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ。
夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。
私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。
旅の夜の怪談に、青春小説、ファンタジーの要素を織り込んだ最高傑作!
「夜はどこにでも通じているの。世界はつねに夜なのよ」

 

Amazon作品紹介より抜粋

 

 

作品批評に入る前に僕が本屋でどのような判断基準で買う小説を選ぶのかをお伝えします。

①作者名

これは、必ず考慮してしまいます。おっ、この人新作出したんだ!ってことで興味を惹かれて手に取るということはよくありますよねー。

作者のファンならよほど悪評ではない限り買ってしまいます。

②デザイン

文庫本書下ろしという形態もありますが、基本的には最新作は単行本→文庫本という流れで発売されるので、この単行本のデザインというのは超重要だと考えてます。

だって、(誤解を招くような言い方ですが)ネットで無料に小説を読めるこのご時世に紙と文字だけのモノに1500円以上払わせようとしているんですよ!

デザインにも価値がないとお金を払おうなんて思わないですよってことです。

③評判

便利で、そして悲しいことですけどAmazonの評価とか見ちゃいませんか……?

そんなもんに左右されたくないって思うんですけど、やっぱり人間「はずれ」は引きたくないです。

作品の評判は買う前に見る。あくまで参考ってことですけどね。

 

さて、そんな判断基準で僕は小説を選ぶわけなんですが、今回の「夜行」は一体どんな理由で選んだのでしょうか。

 

ずばり……①の作者名ですね!

何を隠そう僕は学生の頃、森見登美彦にはドはまりしていまして、

今回久しぶりに彼の名前を見た瞬間購入は決めてしまったくらいです。

表紙のデザインも幻想的で綺麗ですよね。

真ん中の少女もかわいい!

もしかしたら、今回は幻想的なふわふわ系の話かな(笑)

 

「夜行」の話はひとまず置いておいて、作者の森見登美彦さんについてご存知の方も多いと思いますが説明させて下さい。

 

代表作はアニメ化もされた「四畳半神話大系」や本屋大賞第2位の「夜は短し歩けよ乙女」、これまたアニメ化もされている「有頂天家族」等でしょうか。

上記の作品は京都の街を舞台としたドタバタコメディと評するのが簡潔で一番的確な気がします。

腐れ大学生の偏屈ぶりや非生産性的な日常、そしてその愛らしさ(笑)を書かせたら、右に出るものはいないでしょう。

かく言う僕も堕落した大学生だった過去があり、その当時によく読んでいたので非常に好きな作者です。

 

また森見登美彦作品にはコメディ系統とは別の一面があります。

それが「きつねのはなし」や「宵山万華鏡」などの若干怪談テイストの作品達です。

夜の京都の非現実感や闇の不思議さ不気味さの表現が非常に巧みです。

 

というように森見登美彦のこれまでの作品は基本京都を舞台としており、ジャンルとしてコメディもあればホラー的な物語もあるといった感じです。

さて前置きが長くなりましたが、最新作の「夜行」は一体どっち系統の話なのかって問題ですが、あらすじで大体想像できますよねぇ。

 

ホラーですよ! ギャグ一切排除の怪談でした!

正直言うと僕はどちらかと言えば森見登美彦はコメディの方が好みではあるんです。

今回の「夜行」も読み始めは「う~む」感が強かったのは否定できませんね。

全5章で構成されているのですが、第3章までは怪談としての要素が強いです。

ホラーと表現もしましたが、やはりしっくりくるのは怪談という表現ですね。

血がドバドバのスプラッターホラーではなく、夜の闇の静かな恐怖、不可思議から来る恐怖……つまり怪談ですよね。

 

でも、今回の「夜行」は森見作品で一番近いのは「宵山万華鏡」なのですが、

これまでの怪談とは違う、明らかに新しい試みに挑戦しているなって気が僕はしています。

その試みっていうのが僕はミステリ要素だと考えています。

そして、その新しい試みが……大成功していると断言します

 

さて「夜行」を本当にざっくりした説明すると、10年前に同じ英会話スクールの仲間だった6人の不思議体験の話です。

そのうちの一人、長谷川さんはその10年前に謎の失踪をしてしまっています。

主人公である大橋が10年ぶりに揃った仲間と宿で鍋を囲って食事している時に失踪した長谷川さんに似た人物を見た、そして見た場所が岸田道生という画家の個展画廊だったという告白から「えっ、俺も岸田道生知っている」「私も私もー」(っていうノリではないですけど)、お互いの岸田道生、あるいはその作品である連作『夜行』にまつわる不思議体験を披露していくっていう話の構成です。

 

ただ、彼らが語る話が本当に普通じゃないんですよ。

不思議だねぇで終わる話じゃなくて、めちゃくちゃ怖い!

しかも、その謎とか不思議さがその章の中でほとんど解決されない!

おまけに話が中途半端なとこで終わるんです。

え? この話ここで終わりなのって感じになります。

更に過去の体験談の中の話に現実感はないんですけど、それを聞いている「現実」ですらも何だか現実味がないんです。

中途半端に話が終わっているのに、次の人が何もなかったように自分の不思議な体験談を語りだす。

お前らよくこんな話聞きながら鍋食えんな!って内心突っ込んでいました。

その結果、1~3章くらいまではなんだかもやもやするんですよ。決してつまらないわけじゃないんですけど、「このまま最後まで訳のわからない怪談話で終わったらどうしよう」っていう不安は拭えない感じ。

 

4章に入ってくると物語の中心であり謎の人物「岸田道生」の人物像に厚みが増えてくる、それと比例してこれまでの怪談話の中心であり恐怖の根源だった『夜行』という絵への恐怖が薄まってくるんです。

そして、最終章の「鞍馬」でまさかのどんでん返しの展開。

その結果これまでの怪談が単なるホラーではなくなるんですよね。ミステリとして謎が解決できてもやもやがすっきりできる箇所もあるんです!

ただ、すべての謎が解決できるわけではない。

説明されない部分がほとんどです。

もしかしたら、そういう部分のもやもやで自分には合わないなぁって感じる人がいるのも分かります。

オススメの★が3つなのはそういうところです。

ただ、そもそもミステリー作品ではないので解決する必要もないのかなって思いますし、そういう部分も併せて森見登美彦の魅力かなと。

 

僕は森見登美彦の夜の表現がすごく好きで、どれだけ科学が発展しようが夜の闇の不気味さやゾッとする恐怖はなくならないっていうのを読書を通じて感じさせてくれると思うんです。

多分、誰でも夜の闇に対して「死」を連想するからだと思いますし、これから先もなくならないでしょう。

 

今作は怪談でありながら、ミステリとして楽しめる部分も加え、それでも完全には全て明かさない、想像する余地をしっかり残しておくという小説の面白さを堪能できる傑作だと思います!

 

ところで、以前は森見さんのコメディ作品をもっと読みたい!って思っていたんですよ。でも、最近はそんな気持ちがちょっと薄まってきています。

というのも、(ここからの意見は完全に妄想ですが)今の森見さんには腐れ大学生ものはもう書けないと思うんです。

なぜなら、もうその当事者ではないから。森見作品の定番腐れ学生主人公「私」は森見さんの分身だったわけです。それはコミュニケーション力がなくて、童貞で、自尊心が強くて、堕落したダメ人間です。まぁ、それが最高に愛らしいのですけどね。

多分、森見さんは今幸せというか、満ち足りた生活をしているんじゃないかなって想像してます。 そして、そんな状況の中で作品内の「私」に心から共感できなくなって、書くことができなくなってしまった。

だから、僕もあえて以前のようなコメディ作品を求めなくなってきています。

でもでもって、森見さんの作品はこれからも追っていきたいと思います!

 

ぜひ、今作の「夜行」も書店で手にとってみてください!

はじめに

はじめまして! ララダと申します。

このブログでは最新の小説を読み漁って、面白い小説は「おもしれー!」と手放しで褒めちぎり、つまらないものは容赦なく「超つまらん!」と叩き潰すという趣旨で作られる読書批評です。

さて、こんなブログを立ち上げようとした僕なりの経緯があるのでお話したいと思います。

 

僕はとある古書店の店員として5年ほど働いており、

これまでたくさんの本を見て、読んで、買い取りをして、売ってきました。

しかも、現在は店長職に付いており、どうしても本=商売道具に見えてきている現状です。 

古書店で扱うのは中古本です。

そして中古本を売っても作者に直接的な利益はありません。

 

自分の仕事には当然プライドもあるし、大好きな仕事ではあるのですが、

やはりどこか後ろめたさのようなものがないか?といえば噓になるかもしれません。

 

現在、新刊本の市場規模は年々下がり、下げ止まりがあるのかすら不透明な状況です。

そんな中でも毎月のように新作小説は作られ、消費されています。

多くの新作が作られる中で当然、あたり/はずれはあります。

個人的な感想ですが、久しぶりに小説を読んだ人がこの「はずれ」を引いてしまうと、またしばらく読書から遠ざかってしまうーーそんな現象があるような気がしてなりません。

そこで僕はそんな事故のような出来事に多くの人が巻き込まれないように先に最新作を読み、勝手ながらオススメできるのか、できないのかをジャッジさせて頂くという形で日頃お世話になっている出版業界に恩返しがしたいと考えているわけなのです!

 

余計なお世話だという声が聞こえてきそうですが、

半分以上は単なる趣味による読書感想文です。

固い文章ではなく、居酒屋で友人と話すような気軽な感じでやっていこうと思います!

 

少しでも購入の参考になれば嬉しいです。