最新小説読書日記

新刊書店の平積みされている最新小説を手あたり次第読破! ネタバレNGで紹介します

「i」 西 加奈子

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ネタバレ厳禁で紹介する新作小説感想!

今回、紹介させて頂く作品はこちら!

 

「i」 西 加奈子

 

おすすめ度は

★★☆☆☆

非常に読み応えのある超大作なのは間違いなし!

事実、僕も2回ほど泣きました!

ただ、どうしても気になってしまう「うーん」ポイントも……

問題はワイルド曽田アイを好きになれるかどうかだ!!

 

あらすじ

残酷な現実に対抗する力を、
この優しくて強靭な物語が与えてくれました。
――又吉直樹

読み終わった後も、ずっと感動に浸っていました。
なんてすごいんだろう。
この小説は、この世界に絶対に存在しなければならない。
――中村文則

『サラバ! 』(直木賞受賞)から2年、
西加奈子が全身全霊で
現代(いま)に挑む衝撃作!

「この世界にアイは存在しません。」
入学式の翌日、数学教師は言った。
ひとりだけ、え、と声を出した。
ワイルド曽田アイ。
その言葉は、アイに衝撃を与え、
彼女の胸に居座り続けることになる。
ある「奇跡」が起こるまでは――。

「想うこと」で生まれる
圧倒的な強さと優しさ――
直木賞作家・西加奈子
渾身の「叫び」
心揺さぶられる傑作長編!

 

Amazon 作品紹介より抜粋

 

では、作品感想に入る前に作者について語っていきたいと思います。

僕はいつも書店で基本的にはジャケ買いをして、まずは何の情報もなしに読みます。

その後で作者本人のことを調べたり、作者の他の作品も読んでみて、最後にもう一度読み直すという読み方が僕は好きです。

西加奈子さんのことは実は不勉強でそこまで詳しくなかったです。それでも最初は事前情報なしで読んで、次に作者の来歴を調べてから、読み直しました。

格好つけた言い方になりますが、やっぱり「作家性」というのはこれまでの作者の経歴から来るものもあるので「ああ、こんなバックボーンがあったからこういう話が思いついたんだ」というような発見があります。

これまでのインタビュー記事を読んで知った情報なのですが、
西加奈子さんの生まれはイランのテヘラン市。2歳までカイロにいらっしゃって、その後大阪、次はエジプト、そしてまた大阪に戻るという中々特異な幼少時代を過ごされたみたいですね。

成人後はライターやカフェ経営という経験を経て、2004年に「あおい」(小学館刊)でデビュー。

代表作は「さくら」や「きいろいゾウ」、「ふくわらい」、そして2015年に直木賞となった「サラバ!」でしょうか。

そんな西加奈子さんの最新長編が今回の「i」です。

おそらく彼女のファンの方からすると最高傑作という評価になるのではないですかね。

事実、売上も好調なようです。

又吉さんも感想載せていますしね!

 

今作の「i」のストーリーですが、上述のあらすじではよくわからないので、軽く補足させて頂きます。

主人公はシリア生まれだが、アメリカ人の父と日本人の母を持つ女性ワイルド曽田アイ。

自身が養子であること、周囲との人間関係、シッター親子との過去の思い出や祖国シリアの悲惨な現状、日本での3/11の経験、結婚/妊娠といった生まれ育った環境、様々な経験の中で「i=私の存在」に悩み、そして向き合っていく物語です。

先ほども述べましたが、僕は後半の「親友であるミナの手紙」、クライマックスの「海中での叫び」の場面で結構泣いてしまいました。

それほど感動できるし、考えさせられる作品であるのは間違いありません。

作品のテーマは一言で述べるならば「i=私の存在の肯定」でしょうね。

テーマ自体は昔からよく言われる「私は私、あなたはあなた。みんな違って、それでいい」というような多様性の肯定という使い古されたものにも感じられるかもしれません。

ですが、今作ではこの段階を更に1歩、2歩踏み込んだ境地に辿り着いています!

個人という狭い世界に収まらない大きいサイズ間での「アイとユウーー私と他者」という「わたしとあなたの存在の肯定」になっているんですよね。

このあたりは是非実際に今作読んで頂いて十分に感じてほしいですね。

 

タイトルにもなっている「i」はこの作品内では多様な意味を持っていて、冒頭一行目にある「この世界にアイは存在しません」は作中において何度も述べられる需要なキーワードになっています。

「私としてのI、名前としてのアイ、虚数単位としてのi」というようにiの意味がどんどん重ねってくる、アイという名前の私=世界に存在しないワタシ、というような言葉の面白さ、つまりは小説としての面白さが感じられる部分ですし、しかもそこがストーリーの根幹になっている……素直にうまいなぁと唸る部分ですよね。さらにアイの幼少期から学生時代に至る成長過程が丁寧にアイの主観目線で描かれることで物語が奥深まっているなぁと感じました。

細かい心理描写を丁寧に描くことで、最後にアイが辿り着くある答えがあるんですけど、その答えに必然性と説得力を与えることに成功している部分ですよね。さすがは直木賞作家です。

「i」は私小説ではありませんが、前述したように西加奈子さんご自身の経験や生まれ育った環境というものが多く反映されていると感じました。おそらくずっと描きたいと考えていたテーマだったんでしょうし、彼女自身、アイデンティティの問題をずっと抱えてきたのではないのかなって妄想してしまいます。

本当にミナの手紙から最後まではずっと泣きっぱなしでしたし、帯の煽り文句である「想うこと」で生まれる圧倒的な強さと優しさーーを深く感じることができたと思います。

 

 

さてさてさて、ここまで書いておいて、どうして★5つじゃないのか……そんな感想をもった方がいらっしゃるんじゃないですかね。

それが今回の冒頭にも書いたワイルド曽田アイという主人公の存在です!!

いやいや、分かるんですよ? 彼女のそういう性格であることの必然性とかはねぇ。

でもですね、どうしても好きになれない(笑)

本当にアイちゃんは甘やかされすぎです!

嫌いなポイントが何個かあるんですけど、その最たるものが「甘やかされている、恵まれているなんてことはわかっている! でもでも! そのことが逆に私を傷つけるの!」的なスタンスが、

気に入られねぇ!!

なんですかね、成長していないように思えてしまうんですよね。

だからこそ、特異なバックボーンから来る様々な困難や悩みは想像できるし、理解もできるんですけど……

ですけど! 「それ分かるよぉー」「頑張ったねぇー」って共感してほしい、否定してほしくないという幼稚なあれにしか見えないわけです。

中盤らへんでは「もっと不幸になれ!苦しめ!」って思ってしまうくらい(笑)

せめて、バイトでもして社会を知ってから世界を語りやがれ!ってね。

 

と、まぁ絶賛と酷評ポイントを述べてきたわけですが、このアイに感情移入できれば生涯最高の1冊に入れる人がいたとしても理解できますし、それだけのパワーがこの作品にはあるのは間違いないでしょうね。

少しでも気になったなら読んでみてくださいね。

 

では、また次の作品で!